トスカーナの景観とその経済
トスカーナといえば知らぬ人がいないほど、世界的に最もよく知られた地方 だがその農地が織りなす景観は心乱れるほど美しい。
今までにどれだけ多くの人がこの地の美しさを語ってきたであろうか。
この美しい地に暮らす事に誇りを感じながらも、日常生活の中では環境の避 けがたい変化をしっかりと感じ取るとこは難しいのかもしれない。 過去から現代にわたり数多く描写され、今も多くの専門分野で研究対象とな っているイタリアの、とりわけトスカーナの農業景観は変化しつつあり、そ の移り変がもたらす経済的、社会的弊害は十分に認識されてはいないのが現 状だ。
ワインりをしながら農地の景観を保つことは必ずしも容易いことではない。 私の暮らすピエモンテ州のランゲはこの二、三十年の間ですっかり変わって しまった。農地はぶどうで埋め尽くされ、見た目だけは美しい景色をもたら しはしたが、単一栽培は”自然の脆弱さ”を確実にもたらした。
一方、同じくピエモンテの重要なブドウ栽培地域であったカザーレモンフェ ラート周辺では反対にこの数十年の間に歴史的なぶどう畑が殆ど姿を消して しまったのだ。
昔から銘醸地として名高いトスカーナでは栽培面積は激減したものの 1970 年 代初頭に始まった「四つ葉のクローバー計画」によって集約栽培が進められ た。ピエモンテやベネト州の技術者が彼らの栽培方法をトスカーナに持ち込 み、生産コストは大幅に減少した一方で、ぶどうが文字通り農地を「征服」 し、景観は大きく変わってしまった。
![]() |
| ぶどうの大規模栽培 (トスカーナ州マレンマ) |
トスカーナのワインの味とその名をわずか数年の間に世界の檜舞台に押し上 げようと多大な努力をしながらも、それによって引き起こされる環境破壊を 過小評価して来た重大な責任を多くのワイナリーだけに負わせるのはあまり に不公平だと考える。
行政機関も環境破壊につながるような間違った選択が起きぬよう常に注意を 怠らず、持続可能な農業を実践している企業とも連携して地域全体で環境教 育を行い、環境保護を促進するための積極的な貢献が求められる。
今日ワインがトスカーナで作れるのは昔から行われて来た多様な作物の栽培 と、数世紀にもわたって土壌を守って来たテラス状の段々畑という財産があ ったからだ。 しかしながら、火災が蔵書を一瞬で灰にするように昔からの貴重な畑がトラ クターで簡単に潰されてしまっている。最も重要なことは土壌の質であり、 それを守り育みながら世代を超えて長く使うことが大切なのである。 昨日今日成された見た目が美しいだけのぶどうの丘には何ら価値はない。 美しい景観と環境を守りながら収益を上げ、健やかな産物を生み出すという ことはどの生産者にも共通した目標であり、我々は一丸となってこの目標に むかって頑張らなければならない。 しかし、こういった高い意識を持つことで生産者間の分断が起きたり、生産 者グループ間の無用な対立があってはならない。なぜならワインの世界には 経済的なシナジーが必要であり、より長期的な恩恵を受けられるよう生産者 は違いに協力しなければならないからだ。ぶどうに限らずどこに畑を作るか の基本計画は必要だが、大事なことは長期的に景観と地力を保てるかという 点に尽きる。生産性とは長期的な地力に左右される。土壌の肥沃さを守るた めの作業は、等高線に沿って植えられた畑でも等高線に対して垂直に植樹さ れた畑でも必要だが、後者では病気など様々な問題が起きるリスクが高いた め、必要な対処ができるより高い技術と知識が求められる。 農業の美しい景観は貴重な天然資源から出来ているということを自覚し、大 切に守り育み続けることが絶対に必要である。なぜならこれが明日の経済を 支える屋台骨となるからだ。
トスカーナがオーストラリアやカリフォルニア、はたまたヨーロッパの他の 国々のブドウ栽培を真似て景観を壊す必要などない。経済にとっては、単に 収穫量だけが大切なのではなく、多様で美しい農地の景観を保ち続けること がそれ以上に重要なのだ。 トスカーナのように大きな財産を享受できる地方はそう多くないのである。


Comments
0 commenti su "トスカーナの景観とその経済"
There are no comments yet