ブドウ栽培 - 農業環境

気候は変化し続ける

ワイン作りは露天商売だ。

10 10月 2017

 昨年の87日 私はヴァルテッリーナ(ソンドリオ県)のトラオーナにあるクデのぶどう畑で今後の作業スケジュールを決めるために、ダヴィデと共に生育状況を見極めていた。

急峻な斜面に貼りつくように作られた段々畑は、ぶどうの活力から量や質、生育状況、病気の出方や小鳥のつつかれ方に到るまで様々な違いを見せていた。

脈々と築き上げられた知識と経験に基づき、厳しい山岳地帯でのぶどう栽培が続けられて来たこの土地で、グラス一杯のワインを作るという作業がどれほど人生の教訓となり得るかということに思いを馳せた。

過去数十年の間に「気候変動」の問題が政治的にも一般生活でも徐々に話題となってきた。

最近ではこの話題を書くのが生きがいのように、あらゆる分野の人々がこぞって書き立てている。こういう時こそミラノ方言の諺 ” Ofelè fa el to meste”  (餅は餅屋)だと言って差し上げたいが、気候変動以前に環境をこれ以上汚さぬように「減らせ二酸化炭素、無くせ汚染を」と言いたいところだ。環境汚染、二酸化炭素の大量排出、森林破壊、土壌流出などかけがえのない環境資源を破壊するいかなる行為も犯罪であり、今すぐに止めなくてはならない。

気候変動の問題はしかし、専門の学者だけが語るべき事だ。1937年発表されたウンベルトモンテリーニ教授の研究によれば地球は過去1万年の間に4回高温期があった

よく知られているように完新世の時代に、地球は4度の長い高温期を経験している。

完新世の気候最温暖期と呼ばれ、人類にとって過ごしやすい時期であった。

Grande Optimum Postglaciele(氷河期後の大最適期),

Optimum miceneo(ミュケナイ最適期), Optimum Romanoローマ最適期,

Optimum medievale(中世最適期)つを指す。その地球規模での広がりはグリーンランドの氷床コアの炭素同位体からわかる。(Alley 2004; Dahl-Jensen et al., 1988)

グリーンランド中央部の気温はGISP2の氷床コアから導かれた.(Alley 2004)1910年から今日までのデータはECADのデータセットを用いグリーンランド、タシーラク沿岸ステーションの年間平均気温から30.9℃を引いて求められた。

ウンベルトモンテリーニ著「アルプスの気候は歴史的に変化したか?」より

Climate trends over the last 10,000 yearsClimate trends over the last 10,000 years

詳細な調査研究によりモンテリーニ教授は17世紀から19世紀にかけての氷河の増大は歴史上もっとも大きなものであったと結論づけている。16世紀以前のアルプス山脈の気候はそれ以降の時代よりより温暖で乾燥していたことが次の点から証明された。

  • 森林限界が今より上にあったこと。
  • 標高の高いエリアに見られた広範な灌漑水路網の存在
  • 現在通行不能な峠を通行していた事
  • 氷河の範囲が今より小さかった事。

今日ではぶどうの栽培限界は標高800mと言われているが、アオスタにあるシャラント谷では標高1300mの地点でぶどうの切り株が発見されている。 これらの自然が示す事実がアルプスの気候は常に変動していること、また最後の小氷河期がわずか150年ほど前に終わったばかりでありである事を示している。   アレッサンドロ マンゾーニの小説にあるペスト禍のように、気候変動に伴ってパンデミアも発生した。知人の勧めもありオーヴァーエンガディンのシルスで一泊後、気候のアーカイブ(記録庫)に身を投じるべくモルテラッチ氷河を目指しベルニーナ谷へ向かった。ここからは標識をたどって、小氷河期の姿を留めるモルテラッチ谷に簡単に行く事ができる。ここでは1878年以来毎年氷河の計測が行われているが、年平均18m後退し過去数十年の間にさらに後退が進んでいる。

Morteratsch Glacier

モルテラッチ氷河

氷河は標高3900mから下は2060mの間に広がり、総面積は16㎢におよぶ。氷河の厚みは平均で70mだが300mtにまで達する点もあり、エッフェル塔をすっぽり覆うほど厚い。この素晴らしいトレッキングには上からの眺望とともに柳やカラマツ、ナラ、ハイマツとツツジやハイビャクシンなどがわずか100年ほど前まで氷河に覆われていた世界に息づいている多様な植生が華を添えた。

 このように気候の移り変わりを体験できる旅は、万物流転をよりよく理解し、自身で確かめたいと願う全ての人に勧めたい。気候は独自のサイクルで変動する。我々に必要なことはその変化に左右されることなく、環境を守るための責任ある行動を心がけることだ。

 ぶどうに話を戻すとしよう。2017年は周知のとおり雨の少ない、例年の平均気温を上回る暑い年だった。1947年のピエモンテ州のいくつかのエリアでも多くの類似点が見られた(翌年は洪水が起きた)のでなにも特別新しい出来事ではないが、過去の経験を基に対応策を考え入念に準備しておけば問題はなかったはずだ。トスカーナではぶどうだけではなくオリーブ栽培でも様々な問題が発生したが、多くの人々、とりわけ難しい年の経験のない生産者は収穫を早める事を余儀なくされ、バランスのとれたぶどうを収穫出来なかった。

 気候は我々が予測できないサイクルで動くが、様々な研究が進みその解明に役立っている。今や台風や急激な気温の低下、降雨量の減少など、大きな変化を事前に知る事ができるのは大きな進歩だ。気象予報はぶどう栽培に大きく役立つ。これによって適切な栽培管理をおこない、より正確に収穫時期を決める事ができるからだ。それにも関わらず、ワイン作りに関しては、必ずしも合理的な選択が行われているとは言えない州がいくつかある。そのもっとも顕著な例として栽培環境にまったく合わない品種が栽培されている事が挙げられる。同じく栽培方法やぶどうの仕立て方が品種に合わなければぶどう作りは決定的なリスクにさらされ、「今年は気候が良くなかった」がしばしば失敗の口実となる。

 歴史的なぶどう栽培地域には長い間に蓄えられた気候に関する膨大な記録が存在する。どんな条件でもより良いぶどうをつくるためには、そのようなデータを有効に活用し自分の置かれている状況を把握しそれにあった対応が必要なのだ。異常気象や突発的な事が起きてもさほど驚いていてはいけない。人間が異常気象と呼んでいるだけで、自然は当たり前に動いているだけなのだ。そういった事態が起こることを想定し準備を重ね、「先を見通す力があること」をいつでも示せるようでなければならない。

 ぶどうの成長サイクルはかなり複雑で完璧に理解するということは不可能だ。過去の作柄に「似ている点」があるだけで、条件は毎年違う。

ここにワインの魅力があるのである。ワインとは過去を記した「飲む記録」であり、ワインを飲む事で過去を振り返る事ができるのだ。

Sunset towards Monviso mountain on 7th October 2017

モンヴィーゾ山の夕暮れ

2017年の収穫はまだ終わってはいないが、今年のヨーロッパの気候的特徴は次の通りだ:

  • 春の平均を上回る気温がもたらした早期の発芽。
  • 4月17日から24日にかけての気温低下と広範囲にわたる霜
  • 5月以降の季節外れの高い気温と雨不足による干ばつ

収穫が終わればどんな年だったのか分かるが、ぶどう畑とは屋根のない店で商売するのと同じ、つまり生活の糧を得るのはいつもリスクと隣り合わせだということだ。毎年違う条件に対して常に準備が必要だと心に刻みながら、毎年経験を積んでいくのだ。

質の高いブドウ作りに必要な重要なポイントを再度記しておこう。ただしこれはどこにでも当てはまることではなく歴史的にぶどう栽培に向いた地域に限っての話だ。

  •  栽培地で歴史的に長い間栽培されてきた品種を選ぶ。イタリアには特定の地域だけで栽培されてきた数多くの品種が存在する。その一方で国際品種は干ばつにも弱く、病気への耐性も低い。過度に早く熟すにもかかわらず全国の至る所で広範囲で大規模栽培されている。ぶどうの質がよくないためワイナリーでの処理や添加物を加えての加工が余儀なくされる。必要なのは本質を突き詰める事で、この点を消費者に伝えていかなければならない。
  •   土壌の活力を守り育み、土壌の持つ本来のポテンシャルを浪費しない。
  • 土壌を太陽光や豪雨による硬化、侵食や乾燥から守る。有機物を守る事は全てのプロセスの原動力となる。地力を元に戻すのに適した草のタネを撒いたり、草や葉を運び入れ有機物の元を作ることが大切だ。
  • 最大傾斜に沿った植樹を行わない。これは現代のぶどう栽培方法としてトスカーナを始めいたるところで行われている。数世紀にわたって守られてきたテラス状の段々畑を簡単に潰してはならない。

気候は、残念ながら雹害も含めて、変化し続ける。私たちにできる事は素晴らしいぶどうを与えてくれる天の下で先を見越して将来への配慮を怠らないことだ。ぶどう作りは大変な仕事だからといってかならずしもその労力に見合った結果が得られるものではない。大きな我慢を要する仕事だ。

だから、ぶどうがうまく出来ないのを気候のせいだとぼやくのも、性急な判断も、営業マンが勧めるような、またどこかの教授のお墨付きの魔法のような解決法に頼るのも程々にしなければならない。気候変動はいつの時代でもあった事であり、これからもそれは変わらない。

一方、産業革命以来、人類は環境汚染を繰り返してきた。その中でも大気中の二酸化炭素濃度の急激な上昇が挙げられる。農業生産、とりわけぶどう栽培はCO2濃度増大を助長してきたが、その責任に対する認識は無いに等しい。この件に関しては別の章で取り上げよう。

 

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