ブドウ栽培

原産品種の価値

14 1月 2016

農作物にとって原産地の重要性は時代を超えて変わらない。

ワインで考えると、銘醸地には必ずその土地固有のブドウ品種が存在し、そ こでしかできない味のワインができる事で高い経済的価値が作られた。

イタリアのみならず他のヨーロッパのワイン産地でも、歴史的に栽培されて きた固有品種をもとに産地独自の技で生み出されるワインは一つの文化を形 作り、生産地に大きな恵をもたらしてきた例を多く見ることができる。

イタリアには世界で最も古いぶどう作りと、産地の名を冠したワイン作りの 一例がのこっている。Vinum Falernum (ファレルヌムのワイン)というのがそ の一例だが、これに関してプリニウスの『 博物誌』第14巻第6章に次のよ うな記述が残っている。

“ 現在もっとも質の高いワインはファレルノ産のワインだ。作られる場所に より、しっかりとしたもの、甘口のもの、そして繊細なワインの3つの違い があると言う人もいる。

その中でもっとも高く評価されるのは丘の中程で作られていたファウスティ アヌムであった。丘の頂上ではカウシヌム が作られる。平野でつくられるワ インには一般的な名前としてファレルヌムという呼称が与えられた。”

その後、劇的な歴史的変化が訪れる中で、とりわけ領主制や修道院がぶどう の品種と栽培地域のつながりを守り育んできた。トカイ(世界最初の原産地 呼称)やブルゴーニュ、ボルドーを考えるだけでも銘醸地では固有の品種が ワイン経済を支えてきたことがわかる。

長い歴史に彩られたイタリア半島だが、ワイン経済はしかし近年発展したも のだ。地域独自の多様なぶどう品種を元に多くの原産地呼称が生まれた。

しかしその過程で他の地域で歴史を築いてきたような品種、特にフランス原 産品種が導入され、いたるところで栽培が奨励さえされてきた。

古くから栽培されてきた数百ものイタリア原産種ではなく、別の産地のぶど うを使い、伝統の味を忘れ、違うワイン文化の信者となることを選んだよう なものだ。

これはとても深刻な問題である。イタリア原産以外の品種を栽培することは、 経済的な損失だけではなく「イタリアの誇る価値」の重大な喪失であること は間違いない。団結し成熟したフランスのワイン界は「フランス原産品種」 という財産の戦略的かつ絶対的重要性を我々に示して来たが、時をかけて世界の多くの地域で植樹され続けた結果、看過できないほど一般化し画一化さ れた味が市場を席巻した今、消費者は違う味を求め始めている。今こそイタ リア原産品種の幅広さ、独自性とポテンシャルを改めて見直す時なのだ。イ タリア品種こそがイタリアのワイン産業に、そして栽培地域に本当の活力を もたらすことを多くの人々が理解し始めている。

アリアニコやバルベーラ、カンノナウ、コルビーノ、ガルガーネガ、ランブ ルスコ、マルバジーア、モンテプルチャーノ、モスカート、ネッビオーロ、 ネロダーヴォラ、レフォスコ、サンジョベーゼ、トレッビアーノ、ヴェルメ ンティーノ等を主要品種と考え、そうでない無数の品種をマイナー品種と考 えるのは栽培面積の大きさだけで判断するからであって、植樹される土地に 合うか、そこに根付いた伝統的な品種なのかどうか、という基本的な事が全 く考慮されていない証拠だ。

これほどまでに多様な文化を誇ることができるのはおそらくイタリアだけで あろう。それは各地域に根付い深い歴史の賜物だ。だからこそイタリアとイ タリア人を形作ってきた貴重な財産である多様な自然環境をもう一度見直そ うではないか。実際、イタリアは世界でも稀に見るほどの、極めて変化に富 んだ環境と気候に恵まれているのだから。

北はぶどうの栽培限界となるアルプスから、南は世界的に最も収穫の遅い品 種が栽培される南部の沿岸部

まで、その間には丘陵が連なり、平野が広がる。 アドリア海、イオニア海、ティレニア海などに面した海岸線に加え、独自の 地形と気候を持った多くの島々もあるのだ。

我が国にはこれだけ多様な自然 環境が存在するにも関わらず、残念ながら栽培地に適した品種が必ずしも植 樹されているとはいえない。

例えば、シャルドネやピノネーロ、ソーヴィニョンなど早熟種の収穫であっ たとしても夏に収穫が行われるのは早すぎる。明らかに土地と品種があって いない証拠である。そういった事がおかしいとも思われず、さも特別なこと かのように誇張され喧伝さえされている。

イタリアが誇る偉大な品種であるサンジョベーゼの場合、至る所で栽培され てはいるが周知の通り本当に栽培に適した場所とは丘陵、それも地力の弱い 場所と非常に限られている。

これらの例から、過剰な農薬散布による防除作業の必要性について考えずに はいられない。なぜなら土地に合わない品種を植えるから本来しなくても良 い処置が必要となるからだ。さらにいえば、品種が土地に合わないから健康 で調和のとれた品質のぶどうができず、結果としてワイナリーでワインを矯 正する必要も生じるのだ。

遺伝子組み換えの研究にも言及しておこう。

病気に耐性のある品種の研究が進められているが、果たして必要なのだろう か? ブドウもふくむ万物はそのままで完璧であり美しいのだから、なにも 変える必要など何もない。長期的な視点で物事を評価しようではないか。

多くの生産者が、昨今の難しい気候でワインづくりに苦労した事から、気候 変動を心配しているが、生産者はまず気候変動の原因を作らぬよう慎重に考 えて栽培を行うべきであり、自分の栽培地域をより良く理解し、どういう状 況でも対処できるよう準備をしておくべきだ。また、そう遠くはない過去に どれだけ大きな変化を自分たちが生み出してきたかを考え直すべきだ。

この先ワイン業界は目先の利益を追求し投機的な投資が増え、貴重な資源の 浪費をも顧みない悪い方向へ進むであろう

しかし、これからはより多くの消費者が今の問題に気づき本物を求めるよう になる事で長期的視野を持った生産者を理解し、両者が一体となってより強 固な独自性をもったイタリアのブドウ栽培とワインづくりの新たな時代を築 くであろうとも期待をしている。

ロレンツォ コリーノ
(訳 川村武彦)

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