ワイン

自然なワインについて思う事 (前半)

19 10月 2015

ぶどう栽培と醸􏰀学との間にまだ大きな隔たりがあった 70 年代終わり頃、ブ ドウ作りは質より量が重要で、そうやってできたブドウはワイナリーで加工 され一応ワインとなった。”どんなブドウでも持ってきてくれればワインに するよ、いや、ぶどうが無くても(水とアルコール、色素を混ぜて)ワインに してやるよ”とさえいう生産者もいくらかいた時代だった。

当時私は研究のためルチャーノウッセーリオ トンマセット教授に師事して いたが今もあの頃の事をありありと覚えている。 トッマセット教授はその当時、醸􏰀化学の世界的権威であったが、環境バラ ンスを保ちながら質の高いブドウを栽培することに注目し始めた事に賛同し てくださっていた。恩師の才気あふれる教えの中で金言とも言える一言を忘 れる事はない。今や広く言われている事だが、教授自らが多くの場で語って いた。” コリーノ君, ワインというものは畑で作るものだ。ワイナリーで出 来る事と言ったら健康に育ったブドウの質を出来るだけ壊さないようにする 事だけ。それ以上によくする事など決して出来んよ。”

 教授のこの言葉はワイン生産者である私の家でも長らく実践されてきた事だ った。ブドウ栽培者とブドウ産地が再びその経済的地位を回復し、その土地 ならではの個性を持った、美味しいワインが出来るよう長い年月を費やして 来た私の仕事の大きな支えとなった言葉だ。

その後、フローラや地力の保持などブドウ畑だけではなく、より”自然”な ワイン作りのため、畑に隣接する垣根や木々、鳥の営巣地、畑、牧草地, 森 林資源などの個々の環境についても研究を進めていった。 オーストリアやドイツ、スイスなどからも各国の研究で得られた多くの助言 を頂いたが、その間いくつかの地域において、貴重な資源を浪費せず、自然 の調和を保つブドウ栽培とブドウ本来の品質を生かし人間の干渉をより減ら した醸􏰀学が発展し始めていた。

“自然な” という言葉は何度も言って来たように、より相応しい言葉がな いため使われる言葉で、英語の”オーガニックワイン”が一番忠実な表現に 思える。 オーガニックワインを作るにあたって少なくとも次の点が重要となる:

  • 栽培地で古くから栽培されてきたぶどう品種を使い、その土地独自の特 性が保持されている事。
  • ぶどう品種に最適な環境を選ぶ事。
  • ぶどうへの干渉を出来るだけ減らしシンプルな処置で対処するだけでな く、周辺に暮らす人々や環境にも負担をかけない方法を考慮する事。
  • ワインの質を大きく左右するぶどうの生理が守られる生産バランスを保 つ事。

その結果として、オーガニックワインもしくは自然なワインとは、生まれた 土地と生まれた年の特徴を非常に強く反映し、ワインになるまでの全ての動 き(土壌、気候条件、ぶどうの生育過程、醸􏰀方法など)を明確に記録する ものとなる。ワイナリーでは、繰り返しになるが、醸􏰀、熟成、ボトリング においていかなる種類の加工処理も行わず添加物も使用してはならない。

では自然なワインはどのように味わうべきなのだろうか? 工業ワインの世界では,長年組織的に法律をも含めた都合の良い規定づくり を進めてきた甲斐もあり、多種多様な加工処理が許されている。 こうして生まれたワインは注がれたばかりのワインでもすぐに香りがたち、 テイスティングではほとんど即座にワインの特徴が判断出来てしまう。 すぐに判断を下し、特徴を語るというこのやり方は広く普及しており一般消 費者でもそう出来る事が求められている。

 一方オーガニックワインは作り方が普通のワインとは多くの点で異なる。一 切の加工処理がされないため、ワインは生きており変化し続ける。したがっ て、テイスティングには抜栓後しばらく時間を要し、空気に触れさせながら 先入観や固定観念は捨て、どんな香りや味の要素も感じ取れるよう感覚を研 ぎ澄まさなければならない。

こうして時間を置くことで、ワインが開き始めその魅力を感じる事が出来る のだ。いずれにせよ自然なワインは変化を続け、数日はもちろん数週間後で も喜びと驚きを見出すことができる。

年によって、また品種によっても違いがあるが酸化や、揮発酸が高かった り、普通のワインとは違った飲み慣れない味だったりといったことはあり得 る。自然なワインの生産者は研鑽を重ねて美味しいワインが出来るよう努め なければならないのはもちろんだが、消費者は変化がある事も、時にはその 幅が大きくなる事も受け入れなければならない。 きちんと作られた自然なワインは工業ワインと違い体に悪いものは一切入っ ていない。一方、添加物のおかげで出来ているようないわゆる ”欠点のな いワイン” は健康に対する ”攻撃” でさえある事も知っておいて欲し い。

ワインというこの魅惑の食品は長い人類の歴史と密接に関わってきた。 メソポタミア文明の暁からエジプトを経てフェニキア人、エトルリア人、ギ リシャ人やローマ人へと受け継がれてきた。 これらの偉大な文明からぶどうとワイン作りの伝統を受け継ぐ我々は、この 大きな遺産について考え直さなければならない時を迎えている。

偉大な成果に裏打ちされた醸􏰀学の研究と技術は間違いなく大きな進歩の基 礎となった。しかしながら、この成果を産地とはなんら関係のないブドウ品 種を導入し、土壌や周辺環境の破壊をも伴うブドウ栽培と加工処理を前提と したワイン作りに応用してはならない。 自然なワインには計り知れない経済的価値があり、それを作る事はもはや義 務であり最優先目標である。毎年変わる条件の下、それに応じて長年培った 知恵と技術を活かして自然なワインをつくることは決して一筋縄ではいかな い。

これこそワイン職人にしか出来ない仕事なのだ。
(川村武彦 訳)

 

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